12/16

研究と書類の進捗がガチでやばい!というより、そのやばさを見通せずに年末にかけていろいろ予定を入れてしまった今の状況がやばい!

 

伴名練『なめらかな世界と、その敵』

なめらかな世界と、その敵 (ハヤカワ文庫JA)

 同作者が編んだ短編が面白かったので、本人の短編も読もうということで。
いずれの短編も、とにかく台詞回しやSF上の仕掛けの見せ方がかっこいい!表題作なめらかな世界と、その敵は、はじめは世界設定に全くついていけず、次第に並行世界を随意に行き来できる世界の話だとわかる。読み始めて1本目から意味不明で困惑した。作者の思惑通り。全容が飲み込めてくるとラノベ的な読み味も出てきて、特にラストシーンが熱かった。

ゼロ年代の臨界点は、日本SFの歴史をなぞるように見せかけた歴史改変小説。読者をしれっと騙しにかかるような(すぐに違うとわかるのだけど)作品は好き。美亜羽に贈る拳銃シンギュラリティ・ソヴィエトのようなハードなSFもあれば、ホーリーアイアンメイデンのような姉妹の純愛を描いたものもあり、とても多彩。

そして最後に収録されているひかりより速く、ゆるやかにが、個人的にはダントツで面白かった。主人公の幼馴染を乗せた新幹線が突如「低速化」する災害に見舞われる話。災害自体は現実と遠くかけ離れたものでも、それに伴う描写はかなり震災やコロナ禍を想起させる。災害に巻き込まれた人に対して残された家族や社会はどう向き合うのか、未曾有の事態に対して社会はどのような形で適応するのかという問題にすごい角度から切り込んでいる。ここに新海誠に通ずるものをかなり感じた。タイミングの問題かと思ったけど、どうやら作者も意識しているっぽい。創作に現実を投影することに対してかなり意識的で、色々考えながら執筆しているようで信頼できる。ラストは「天気の子」的なセカイ系の風味も帯びてきて、エンタメとしてもSFとしてもすごく満足できた。

 

すずめの戸締まり

観てきた。この映画を語ろうとすると色々なものが渦巻きすぎるので大っぴらに言ってまわるのは憚られるのだけど、少なくとも今は新海誠に対して尊敬と感謝の気持ちしかない。感想は下に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この映画のテーマは明確に「震災に遭った人たちへの追悼」で、そこにあった生活に思いを馳せること、それを乗り越えて前に進むことを扉のモチーフに絡めてかなり直接的に描いている。悲しいことに蓋をするという意味かと最初は思ったけど、扉を閉めることは出発の合図でもあって、そのモチーフ選びがうまいな〜と思った。映像技術もさすがとしか言えない。絵が綺麗すぎるのはもちろんのこと、今回はカメラワークもかなり進化していた気がする。ミミズが怖すぎてすごかった。新海誠作品はずっと東京の描写が印象的だったけど、今回は抑えめで、地方の描写に力が入っていたのも良かった。愛媛の千果ちゃん、神戸のルミさんと、鈴芽を温かく迎えてくれる人たちがめちゃくちゃ良かった。伊藤沙莉さん、俳優としてだけでなく声優としても結構好きなので、いい起用のされ方をしていて嬉しかった。芹澤と環さんが、「君の名は。」でいうところの奥寺先輩と司のポジション。PAでの環さんと鈴芽のやり取りがすごかった。そこまで言わせちゃうんだ。芹澤と草太の会話も結局ほぼ無かったし、この2人は深掘りする余地がいくらでもある。

本題。扉を閉める瞬間、そこにいた人たちの声が流れ込む場面や、母親を失った鈴芽の描写には来るものがあって、結構泣くのを堪えてた。被災三県の出身ではありつつも内陸部に住んでいて大した被害を受けなかった自分は、当時小学生で世界が狭かったこともあって、実際に被災した人の気持ちにはなれていなかったなと思った。震災から約12年というこのタイミングで、ある程度大人になった自分がこの映画を観れたのはとても良かった。

震災の傷が癒え切らないこの段階でエンタメとして震災を描くことへの批判も当然あると思う。実際、緊急地震速報の描写なんかは当時をかなり思い出させるものがあって、被災した人にぜひ観て欲しいとは到底言えない。とはいえ、震災をアンタッチャブルなものとするのもどうなんだろうと。エンタメにすることで否応なく帯びてしまう軽薄さや、それによって生まれる暴力性は間違いなくあるけど、それを受け入れて初めて達成されることもある。今回でいえば被災者への共感。ただ、これは被災しなかった人のための映画だなとは思った。もし自分が被災者だったら全く違う感想を持ったかもしれない。震災で何か失ったものがあって、その悲しみが癒えていない状態で観たら、鈴芽の最後の描写は受け入れられないかも。真の共感や優しさを得るためには暴力性を認めなければならないのかもしれないというアンビバレンスを感じた。自分より下の世代の、震災の記憶が薄い、あるいは全くない人たちに特に今後観られていくべき作品だと思った。

なんにせよ、「君の名は。」と「天気の子」を経てこのような直接的な描写をすることを決断した新海誠はすごい。ネットを見ているとまあまあ批判的な意見もあって、まあそうだよねと思った。天気の子のときも思ったけど、今や国民的映画を作る人になって、もっと当たり障りのない映画を作っても売れるはずなのに、こういう挑戦をしてくれるのが嬉しい。それによって批判が巻き起こることも含めて、健全な状態だと思う。新海誠のオタクになりそう。新海誠作品というより、新海誠のオタクに......。