2022 今年の9枚

今年リリースされたものの中から特に良かった9枚を選ぶ。アルバムだけでなくEPも含めたかったのでこの題になった。

 

1. JYOCHO - しあわせになるから、なろうよ


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ギターが極めて技巧的でありながらも決してうるさく感じられず、フルートの音色も相まって終始温かい雰囲気を纏っている。というのがこれまでのJYOCHOに対する印象であり、このアルバムの前半に言えることなんだけど、後半にはダイナミックなリズム隊にエモいアルペジオが重なる「悲しみのゴール」や歪んだギターが印象的な「夜明けの測度」のような新しいJYOCHOを感じさせる曲もあって、その躍動感に一聴で心を掴まれた記憶がある。光からそこに潜む闇、それを乗り越えた先の光というようなストーリー性があって、最初から最後まで通して聴きたい一枚。

 

2. mol-74 - OOORDER


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モルカルは春から冬のイメージが強かったけど、このアルバムにはどんな季節にも馴染む強度がある。「Teenager」が出たときなんかはそれまでと違ったアッパーな雰囲気に戸惑う声もあったみたいだけど、アルバムの中で聴くとしっかりモルカルの持ち味が生かされ、さらにアップデートされているように感じる。特にアルバムを通して深いところから高みに昇っていくような構成になっていて、おいしいところを隅から隅まで味わえる。このアルバムはリリースツアーにも行った。生のバンドサウンドで聴くとやっぱり印象が違って、特に「更新曲」のイントロのワクワク感は今も鮮明に思い出せる。

 

3. PELICAN FANCLUB - 解放のヒント


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電子音を大胆に使っていながらもフィジカルなバンドサウンドも全面に出ていて、そのアレンジの仕方がとにかくかっこいい。よく知らないミュージシャンのアルバムの一曲目でいきなりハマってしまうことなんてそうそうないけど、このアルバムに関してはそれだった。曲数が16と多いのも嬉しいし、タイアップ曲である「三原色」や「Who are you」、「ディザイア」が全て後半に配置されているのも思い切っていて良い。通して聴けば納得の曲構成になっている。邦ロックでは唯一無二のジャンルを名状しがたいバンドだと思っていて、メンバーは1人になってしまったけど、その存在感を強く持ち続けて欲しい。

ちなみにここまでの3枚は3月の一人旅で延々と聴き続けていたので、これらを聴くと割とそのときの情景が思い起こされる。

 

4. 立椅子かんな - H2Oと碧眼


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9枚の中で唯一、友人からの勧めによってハマった一枚(大感謝......)。リリースカットピアノが生む危ういコード感とあえて合成音声感を残したようなボカロの調声を緻密な編曲で支えている印象で、どの曲も緊迫感の伴ったかっこいい仕上がりになっている。エレクトロサウンド主体かと思いきやギターが大きな役割を果たしていて、シングルコイル的なジャキっとした音がちょうど自分の好みだし、ちょうど気持ちのいいところにヘッドピーンが入っていたりして大いにツボを刺激される。11月のボーマスにCDを買いに行ったのもいい思い出。

 

5. はるまきごはん - 幻影EP-Envy Phantom-


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林檎音楽によれば2022年で最も聴いたアルバムだったらしい。確かに6〜7月頃は狂ったようにリピート再生していた。アプリ「幻影AP」とライブ「幻影LV」との連動で一つの大きなストーリーを持った作品群で、それを含めて非常によかった。(ストーリー&アートブックを貸してくれた友人には大感謝......。)オルタナの子どもなので、それが全面に出た「仮定した夏」がやっぱり好き。基本的にどの曲も爽やかな曲調でありつつも、底に沈澱した影のようなものも感じさせる。「幻影」のような曲にハマるのも自分としては珍しい気がする。物語の最後にはかなり余白があって、決してわかりやすいハッピーエンドではなかったのもよかった。作品群の大部分をはるまきごはんご本人が手がけており、本人曰く地獄のようなスケジュールだったらしいけど、こういうのはまたやってほしい。

 

6. キタニタツヤ - BIPOLAR


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「悪魔の踊り方」で知り、それ以降のポップな路線よりも「こんにちは谷田さん」名義の頃のエモタナ路線が好きだな〜と思っていたところ、本作に良い意味で裏切られた。これまでの活動は全て地続きで、「こん谷」時代の音もJ-POPとして高い次元で昇華させようという精神が感じられる。改めて全部聴き直してみたらめちゃくちゃ良かったです。オルタナチックな「夜警」や「Rapport」が一聴では特に気に入ったけど、「PINK」や「タナトフォビア」もスルメ的に好きになっていった。特に後者2曲は意外と歌いやすくて、歌詞のかっこよさもあって結構口ずさんでしまう。

 

7. colormal - anode


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現在応援しているバンド第一位。オルタナが素地にあるガチガチのロックサウンドにめちゃくちゃ美しい歌メロが乗っかっていて、無敵かと思う。レコーディング環境やミックスの良し悪しとか全然わからないけど、インディーズとは思えないほど音源の音も良い。「瞳」ヒトリエのシノダさんがTwitterで推していたことで知った気がする。この曲はギターのリフが良すぎる。みんなにおすすめしたい。「優しい幽霊」なんかは歌詞も良い。絶対に流行るポテンシャルのあるバンドだと思っている。

未だに話したいことも分からない散らかり放題の頭に、

他の誰かと同じような、バランスが有れば良かったな。

さらにギターボーカルのイエナガさん経由で色々なインディーズのミュージシャンを知ることもできた。その中でもkurayamisakaと、次に挙げるFUJIがいい出会いだった。11月にはエイプリルブルーとの2マンにも行った。3列目の真ん中という絶好の場所で彼らの音を浴びた時間は至高だった。

 

8. FUJI - PURE

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音源の制作やカバーデザインなどをほぼ1人で手がけるソロプロジェクト。脱力した歌声と潰れたギターサウンドが退廃的な印象を色濃くしている。11月のリリースで、秋空の下で聴くのがとても良かった。あくまでも自分の中で完結した独白的な歌詞にどうしようもない孤独感が滲んでいて、結構刺さってしまう。特に「pure」がすごい。サブスクかbandcampでしか聴けないのが惜しい.......。

寝癖がついた髪を直して

またベッドに帰るだけの

普通にどうして意味を欲しがってるんだ

下手くそな呼吸のままでいいんだ

元ボカロPのイズモリョウスケ(ex. メル)が関わっていると知ってびっくり。自分が好きなミュージシャンの間に緩やかな繋がりがあったりして、世界の狭さを感じることがある。

 

9. For Tracy Hyde - Hotel Insomnia


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待ちに待ったフォトハイの新譜。ポスト・パンデミックを背景に心理的な「旅」をモチーフにしたとのことで、自分たちの立ち位置や作品の位置づけに意識的なのが信頼できる。オルタナティブロック・シューゲイズの文脈の中で、バリエーションに富んだ楽曲を詰め込んだこれまでの集大成的な作品。とはいえフォトハイはわかりやすいシューゲイズそのものをやってきてはいない気がしていて、じゃあ自分がこのバンドの何が好きなんだろうと考えると、やっぱり作品として提示したいビジョンが明確なところなのかなと思ったりする。お気に入りの曲となると甲乙つけがたいけど、MVがある中では「Subway Station Revelation」、それ以外では「Kodiak」かな......。前者はライブで聴いたときから注目していて、後者はアラスカあたりの北方の地域の情景が浮かぶような良さがある。公開されていたレファレンス集の曲はあんまり知らなかったけど、「Undulate」がRadiohead的なのと「The First Time」にめちゃくちゃ「Wonderwall」なところがあるのはわかる。