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奈良美智: The Beginning Place ここから

青森県立美術館で開催されている企画展。ちょっと足を伸ばして観に行った。

奈良美智の作品自体は何かの展覧会で見たことがあったけど、今回はかなり大規模な個展だ。新旧色々ある中でも、去年に発表された「Midnight tears」が一番グッと来た。色使いが綺麗だし、めちゃめちゃ吸い込まれる感じがある。台湾での検疫による隔離期間中に描かれた落書きのような展示では、素朴に絵の上手さを実感した。あとは北海道で撮影された「旅する山子」のシリーズも良かった。オンラインショップにステッカーを見つけたので注文してしまった。転居を考え始めているので、新居に貼るポスターなんかも買ってしまおうかという欲がわく。お気に入りの作品はなかったから買わなかったけど。

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柴田勝家『走馬灯のセトリは考えておいて』

SF作家・柴田勝家の短編集。全体的に「バーチャル」に意識が向いた作品集だった。

「クランツマンの秘仏」は、信仰が質量を持つという思考実験の話。異常論文的で、真実と虚構の境目が曖昧な感じが良かった。(実際に後から調べて虚実を誤認していた点がいくつかあった……。)ただ、冒頭の期待感に比べたら尻すぼみだった感じは否めない。同作者の同種の作品の中では「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」の方が好きだったな。

「異常論文」にも収録されていた「火星環境下における宗教性原虫の適応と分布」は、今度こそ読破しようとチャレンジしたけど無理だった……。宗教の伝播を寄生虫の繁殖になぞらえるアイデア自体は好きなんだけど、話が火星へ飛ぶところでついていけなくなってしまう。

表題作「走馬灯のセトリは考えておいて」はめちゃくちゃ面白かった。死者の生前のデータから生き写しを作る技術「ライフキャスト」を使って、バーチャルアイドルの「ラストライブ」を演出する話。VTuber文化とAI技術を下敷きにした今だからこそのテーマであり、ある種の百合文芸でもあり……。読後はかなり熱い気持ちになった。

 

間宮改衣『ここはすべての夜明けまえ』

SFマガジン2月号に収録。特集が面白そうなので買って新幹線で読んでた。

身体が老化しなくなる融合手術を受けた「わたし」の一人称の形で綴られる家族史。どこか隔世の感がある語りで、「わたし」が歩んできた壮絶な人生が明かされる。その中に挟まれた、自分も馴染み深いボカロ音楽の描写にドキッとした。

 

ブルーピリオド 12巻

気づいたら書店に並んでいた。最近は新刊の発売に遅れて気づくことが多い。コンテンツが溢れすぎている。

ずっと人間の多面性の話をしている。この作者の描く女性のかっこいい顔が好きだな。最近の巻で顕著な気がするが、影を落とした不穏な表情の描写がちょこちょこあって、そこに意図があるのかどうかよくわからない。いやまあ意図してるんだろうが。それがこの作品にじめっとした印象を抱かせる。嫌いではない。

 

帰省

親の車から地元の風景を見ていて、生まれ育った街のことを自分は案外知らないなと思った。時間と金に加えて移動手段も縛られていた中高生時代、生活圏は狭くて、自然と目に入ってくるものは少なかった。市街中心部の道も朧げにしかわからないし、大学に入学してから数回の帰省の中で初めて、住んでいた市の全貌が見えてきた気すらある。

首都圏に住むようになってから、時間と金が増えたことに加えて、主な移動手段が電車になったことによる心境の変化が大きい。行こうと思えばどこへでも行けるという感覚が、その土地のことを今は知らなくても、知ろうと思えば簡単に知ることができるという意識を持たせてくれたのだと思う。それは地元についても同じだった。

生活の変化は、金が許す限りは自分のやりたいことは自由にできるという意識も産んでくれた。ギターとかコンタクトレンズとか、中高生時代にも手に入れようと思えばできたはずなのに、なんでやらなかったんだろうね。受験に対するプレッシャーを必要以上に感じていたこともあるけど。ここ一年くらいで考え始めたことを、今回は再確認した。

 

震災があった。帰省していたこともあって、13年前のことを思い出さずにはいられなかった。全国に知り合いが増えたからこそ、他人事ではない感覚と同時に無力感が深まる。しばらく気もそぞろで、個人的な安否確認の連絡もできなかった。募金とかはできるけど、こういうときどうすればいいのか未だに真の意味でわかっていない。