最近読んだ本

相沢沙呼『invert 城塚翡翠倒叙集』

城塚翡翠シリーズ、続編の文庫化を待ち続けて早二年……。結局単行本を友達から借りてしまった。

前作である意味「手の内」を明かした後だったので、続編はどうするんだろうと思ってた。3つの中編集で、犯人側の視点から語られる部分が多く、犯行の中身よりもむしろ翡翠の推理を読者に推理させるのが面白い所だった。というかそれが倒叙という手法なのか。

「雲上の晴れ間」と「泡沫の審判」が良かった。時代の閉塞感とマッチした犯人の不憫さ。だいぶフィーチャーされていたカップリング要素にはあんまり乗り切れなかった。

 

柳田國男遠野物語 全訳注』

(結局行けなかったのだけど)遠野に行く計画があったので半分くらい読んだ。この全訳注が出たのがちょうど最近で、タイミングも良かった。

現地の人から聞き取ったことを綴った、あくまで事実に基づく記述であるということが強調されていて、それでいてナラティブとしての性質も強くて不思議な読書体験だった。「平地人を戦慄せしめよ」というキラーフレーズの良さ。

 

高野史緒グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』

茨城県土浦市版の、よりSF色が強い「君の名は。」とでも言うべき内容。同じ2021年、インターネットができたばかりだが宇宙開発が進んだ夏紀の世界と、宇宙開発は発展途上だが量子コンピュータが実用されている登志夫の世界が、飛行船「グラーフ・ツェッペリン」の記憶を巡って交錯する。

実家に帰省しているときに読んでいたので、夏紀の住む土浦市のちょうどいい地方都市感と自分の地元がリンクして、中高生時代の夏休みを思い出しながら読んでた。

色んな細々とした描写にあまり必然性を感じなくて、SFとして綺麗なストーリーだとは思わなかった。でもそれで良かったのかもしれない。作者の書きたいことに付き合ってなんとなく雰囲気を楽しむような読み方になった。

 

伊与原新『八月の銀の雪』

自らの人生に様々な悩みを抱えた主人公たちの精神的な歩みを描く5編の短編集。地球科学的なモチーフが多数登場するのは同作者のこれまでの作品通りだけど、それを物語の本筋に絡める精度が確実に上がっている気がする。特に「10万年の西風」は鮮やかだった。気象観測に原発風船爆弾に......。場面転換がほとんどなく、主人公と、それを導く老人の会話だけで進むのもすごい。それぞれの短編の流れが型にはまりがちな感はあるが。ストーリーとして一番良かったのは表題作の「八月の銀の雪」。日本で苦労しながらも研究者を志す留学生の描写はかなり勇気づけられるものがあった。

 

田近英一『凍った地球』

地球史学、地球惑星システム学の第一人者が、地球の歴史に全球凍結状態があったことが示されるまでの研究の過程を綴った本。自然科学系の研究者が書く本は飽きずに読み進められるかかなり分かれるところがあると思うけど、これは全然飽きずに面白く読めた。現実に観測できず、その痕跡を辿ることでしか調べられないような現象を扱う分野はすごくミステリー的で、ハマる人はハマるんだろうなと思った。

 

米澤穂信氷菓

米澤穂信作品が好きなら古典部シリーズもちゃんと読破しておこうと思い立ち、唯一持っていたこれを読み返した。でもやっぱり「儚い羊たちの祝宴」とか「満願」あたりの作風の方が好きだな。「愚者のエンドロール」も買ったのでこれから読む。

 

北村紗衣『批評の教室 ——チョウのように読み、ハチのように書く』

作品に対する批評をいかにして行うかを解説した本。批評をするにあたっての姿勢とか、その指針がわかりやすく示されていて、自分もちゃんと批評文を書いてみたいという気持ちになった。「ごんぎつね」とか有名な映画とか、多くの人が知っている作品を引き合いに出してくれているのも嬉しい。でもやっぱり徹底した精読や周辺知識の収集は要求されるものであって、大変だなあ......とも思う。