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感想

伊与原新『月まで三キロ』

六編の短編の全てに、地球惑星科学に絡んだ話題が登場する。人生に行き詰まった主人公がその道の専門家に出会うという点では全ての短編が共通しているけど、飽きずに読ませる力があった。六者六葉の行き詰まり方のリアルさゆえ仄暗い雰囲気がありつつも、なんとなく暖かい余韻が残る感じが良い。気に入ったのは「星六花」と「エイリアンの食堂」。

「星六花」は、仕事や恋愛に上手くいかないまま年齢を重ねてしまった主人公富田が、気象庁に勤める人物奥平に出会い、彼に惹かれていくが...という内容。雪の結晶は完全に物理過程のみによって作られるものなのに、ただの偶然により誰の目にも美しい模様を作る、という話は、なんとなく「虹の解体」みたいだなと思った。今年の初め、南岸低気圧が東京に雪を降らせたときのことを思い出して良かった。

「エイリアンの食堂」は、筑波の研究学園都市で食堂を経営する父娘が、KEKで任期付きの研究員を勤める女性「プレアさん」に出会う話。母を亡くした少女と、幼い頃の憧れのまま研究を続けている大人の関係、なんか良いなあと。プレアさんが任期切れで一時的に無職になるところが一番辛かった。

 

立椅子かんな - H₂Oと碧眼

H₂Oと碧眼

v flowerの声質やミクの調声によるところも大きいと思うが、常に緊迫感のあるサウンドで楽曲が進行する。ギリギリのラインを計算して攻めている感じで、非常に好み。一聴ではエレクトロサウンドが中心の作風なのかなと思うけど、よく聴いてみるとバンドサウンドがめちゃくちゃしっかりしていて、特にギターの音が良い。


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上のEPに入っている曲ではないが、「或る独白」が一番好き。サビのメロディがめちゃくちゃかっこよくて、そこに至るまでの構成も綺麗すぎる。サビ入りのヘッドピーンからしか得られない栄養素がある。最近のボカロシーンのトレンドとしてリリースカットピアノ(最近知った言葉)の多用があるらしいが、この人も例に漏れないなと思った。

今本当にハマっていて、この人の曲をもっと聴きたいので応援したい。


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雑記

エモい生活

エモい生活、ひいてはエモい人生を送りたいなあと思っている。

創作をしている人に対する憧れや引け目がずっとあって、自分はそのスタートラインに立つことすら諦めてきた人間だけど、その未練がなんとなく捨てきれない。今自分は将来的に博士課程に進学する方向に傾いているが、その動機には自分が戦えるかもしれない分野で自分が胸を張れる創作物、つまり論文を生み出してみたいという願望が多分に含まれている。経済的に豊かな生活を送りたいなら、海外に出てバリバリ活躍したいというのでない限り修士を出て就職する方がいいし、その先で満足できる将来像も見つけられると思う。まず金銭的・精神的な余裕があり、その余暇に人生の価値が見出されるという部分も大いにあると思う。それでも、少なくとも現在の人生の目標は博士課程で良い論文を書くこと。その先で得られるエモさが人生に欲しいなと思っている。

結局、俺たちは、大人になるほど社会のままならなさを理解し始めて、安定へ、守りへと向かってしまうけど、ガキみてえな一握りの目標を追いかけてもいいはずですよねえ。人生が進んで守るべきものが増えると、自分のためだけに生きるのは難しくなるのかもしれねえ。それでも、だからこそ、若え今の時期を、攻めに使うべきだっつってんの。