2023年ベストアルバム10選

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リリース順に。

 

1. カネコアヤノ / タオルケットは穏やかな

このアルバムで初めてカネコアヤノをちゃんと聴いた。表題曲「タオルケットは穏やかな」がシューゲイズだという評判を見かけたことと、曲名の語感の良さに惹かれたのがきっかけだった気がする。ありのままの生活が愛しくなるような曲で、MVは何度観たか知れない。2月頃にたくさん聴いていたのもあって、冬の終わりの暖かい日差しを連想させる。

アルバムとして聴いたときも冒頭の「わたしたちへ」の轟音で一気に心を掴まれてしまった。伸び伸びとした歌声が自然で心地よい起伏を伴っていて、「気分はいつも上がったり下がったり」を体現しているような感じ。この音源は無数にありうる表出のされ方の一つでしかないのだろうなと思う。ライブに行ってみるべきだろうな。


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2. Homecomings / New Neighbors

4月頃にユーフォがアマプラで公開になって、そこで初めてリズ青を観たのがきっかけだった。新譜がリリースされたばかりなのだったらそちらも聴いてみようと。そこで出会った「US / アス」にどハマり。穏やかで優しい歌声に綺麗なアルペジオ、そこにリズム隊が気持ちいい疾走感とダンスミュージック的なノリを加えていて、めちゃめちゃ丁寧で美しい曲だと思う。「ぼくらはたまたまうつくしい」というフレーズもいい。ただ寄り添うこと、それを宣言することの尊さ、そこに偶発的に (いや必然的に?) 生まれる美しさを歌っている。

穏やかなようでしっかり歪んだオルタナサウンドを鳴らしている「Shadow Boxer」に、夜のまどろみをそのまま曲にしたような「Drowse」、シューゲに接近したドラマチックな「euphoria / ユーフォリア」など......。色んな表情を見せる中で、どれもが歌モノで歌詞もいい。いろんなプレイリストに入れたいお気に入りの曲がたくさんある。

新年度から環境が変わって、諸事情につき週一で (午前4時に!) 早起きをする生活を始めた頃に繰り返し聴いていたので、今聴いてもその頃のことを思い出す。全体的に夜から朝にかけてを表現したアルバムなので、その生活にマッチしていた。眠れない夜や早起きした朝に外の空気を吸いながら聴きたい一枚。


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3. The Otals / U MUST BELIEVE IN GIRLFRIEND

「世界一とっつきやすいシューゲイザー」を標榜するユニット。cruyff in the bedroom的な脱力した男声と、フォトハイ的な可愛らしい女声のツインボーカルが癖になる。自称している通りとてもキャッチーで、ジャンルもシューゲとは言いつつボーダーレスな印象を受ける。ただ全体としてギターがめちゃめちゃ歪んでいるのが良い。夏×青春×シューゲという、もはや一分野として確立したテーマでありながらも、カートゥーン的なアートワークも手伝って他とは一線を画したバンドになっている。「そしてチャイナブルー」みたいな直球の曲が強い。絶対にもっと評価されるべきなので、今後の展開に注目したい。

リリースは5月だけど、夏真っ盛りの時期に出会えたのが良かったな。8月に北海道へ旅行したときに、小樽の街並みを眺めながら聴いたのは良い思い出。私の2023年の夏はThe OtalsとMoritaSaki in the poolで構成されている。


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4. Sohbana / 0-0

ボカコレ2023春で聴いた「はなれあうゼロ」が気に入ったから、本当に何の気なしに聴いてみたのが良かった。繰り返し聴いていたのが梅雨の時期なので雨のイメージが強い。「途途れ」「カレラ」「雨は実刑」あたり、楽曲の空白を平板的に埋めるようなバッキングギターがなんか好きだ。1曲目がとおまどのイメソンであることを後から知ったときはさすがに叫んだ。その中で「はなれあうゼロ」みたいな曲がリードトラックになっているのが面白い。

源流には邦楽ロックがあるけど、それもwowaka/ヒトリエあたりのボカロ以後の邦ロックも含めたところにルーツがある。2015年頃、ボカロ音楽と当時隆盛していた国内の4つ打ちロックに同時にハマっていたので、その頃を想起させるような楽曲群だ。(全然網羅できているわけではないけども) 現役のボカロPの中では一番自分のボカロの原体験に近い音楽をやっていて、それも今の流行に合うようなアップデートをされていてとても良い。


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5. colormal / diode

2つのEP「anode」「cathode」を合わせて「diode」。特にanodeは2022年に擦り切れるほど聴いたので、その当時の印象の方が強い。ポップな歌メロとガチガチのオルタナサウンドが見事に調和していて、J-POPリスナーとしてもオルタナロックリスナーとしても大満足。アルペジオが生み出す情感、ストロークの歪みどれ一つとっても自分の好みにぶっ刺さりなギターサウンドを聴かせてくれる。ギターに感情が宿っているってこういうことだと思う。

ディスクユニオンで予約購入したのも良い思い出だ。フィジカル盤の受け取りを楽しみにする気持ちは忘れないでいたい。その特典だった「発光」も名曲なんだよな。このアルバムを聴くときには絶対に最後に再生するようにしてるし、この曲があるからこそ、diodeが単なる2つのEPのまとめではなく、一枚のアルバムとして完成したものと思ってる。イエナガ氏ありがとう。リリースパーティに行けなかったことが本当に惜しい。


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6. Galileo Galilei / Bee and The Whales

正直リリース直後に聴いたときには全然刺さらなかった。当時Twitterでよく見かけた評判の通り、BBHFと同じじゃんと思ってしまったから。BBHF自体とても好きだけど、「PORTAL」や「ALARMS」あたりの作風を期待してしまっていたところがあった。でもふとしたきっかけで聴き直したときに、新鮮な気持ちでいいなと思えた記憶がある。Porter Robinsonとのコラボのときだったかな......。あれも良かったな。

とにかく「このメンバーで音楽をやれることが嬉しい」という気持ちが全面に表れているのが良い。節々にBBHFではないGGとしての自然体の音を感じることができて、昔のGGに無理に回帰しようとしない姿勢にむしろ信頼感を抱いた。「死んでくれ」が一番好きです。ぎょっとするタイトルの中身が直球のラブソング。

フェスで演奏する姿を近くで見れたのも良かった。既存曲もたくさん演ってくれて、その中でも活休前から格段に進化した「星を落とす」は2023年に見た中でも屈指のベストアクトだった。


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7. 君島大空 / no public sounds

2023年1月にリリースされた「映帶する煙」の方はそんなに刺さらなかったけど、こちらは一聴で食らってしまった。繊細な歌声を静かに聴かせるようなミュージシャンなのかと思っていたから、ダイナミックで遊び心に溢れた本作を聴いて心底驚いた。1曲目「札」の攻撃的なイントロが何度聴いても良いんだけど、収録するタイミングが違えば全く違ったものになっていたんじゃないかというライブ感がある。歌詞もそう。

世界の禮

極光由来

潔白と是を包する間

お前だけ、きっっつい時差

誘惑を要する頬!

これどういうことですか?

一番好きなのは「c r a z y」。肩を掴まれて揺さぶられているような、隣で優しく語りかけてくれているような不思議な感覚で、めちゃめちゃかっこいい。「讃歌」や「16:28」のように普遍的だけど唯一無二の美しさを備えた曲もある。「- - nps - -」にはまさにこの作品で大事にしているような、未整理で偶発的な音楽の尊さが宿っている。誰に勧められるでもなく、自発的にふらっと聴きにいった先で出会えたことが嬉しい作品。


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8. MyGO!!!!! / 迷跡波

オタクに勧められて聴いたらそのオタクよりもハマってしまった。アニメよりも先に曲から入ったタイプ。あえて結束バンドと比較するなら、こちらの方がパンク・ハードロック寄り?もはやストイックとも言える (ストリングスやシンセを挟まない) 純粋なギターロックは両者に通じるものがある。結束バンドはそんなギターロックにアニソン的な歌唱が乗っているのが面白いのだと思うけど、MyGO!!!!!は可愛らしさを抑えた透明感のあるボーカルなのが特徴的。それでも歌詞の聞き取りやすさはさすが声優の力というべきか。

何よりもポエトリーリーディングが作品の中核にあることに驚いた。amazarashiのポエトリーには個人的にすごく馴染みがあったし、アメリカ民謡研究会やMOROHAなど、多様なジャンルでポエトリーリーディングが受け入れられ始めている感覚はあったけど、こういうストレートな邦楽ロックでやるのは自分には新しかった。アニメを見ればそれが必然的であることがわかるけど、高松燈の背景や歌声があって初めて実現できていることだと思う。最初は素直にブチ上がれる「迷星叫」や「壱雫空」が好きだったけど、今では「詩超絆」が心を掴んで離さない。アニメ10話は20年代屈指の名シーンです。本当に。もう2つあるポエトリー曲「潜在表明」と「音一会」にもそれぞれ異なる良さがあります。

結束バンドと同等かそれ以上に面白いことが実現できているバンドだと思うので、もっと注目を浴びてほしい。


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9. ひとひら / つくる

バンド自体はリリースの1ヶ月くらい前に友人から教えてもらって、ちょうど聴くようになっていたところだった。ダチ、タイミング完璧すぎる......。the cabs由来のエモ・マスロック的な要素にシューゲイズの要素が加わり、めちゃめちゃハイレベルなバランス感覚を持ったバンドだ。前作も良かったんだけど、このアルバムは飛び抜けて凄い。全12曲、合計36分が途切れず繋がっていて、1つの長大な曲のようにも思える。

1曲目「つくる」の徐々に加速し発散する幕開けから、轟音で激情を鳴らす「国」→「Seamless」への接続が気持ちよくて仕方ない。技術を見せつけるような演奏ではなくて、曲の纏う切なさにアルペジオが常に寄り添っている。インストバンドからの影響を公言しているように歌詞は少なめなんだけど、点在する歌に確かなメロディセンスを感じるし、言葉はこれより多くても少なくてもいけないというような気にさせる。

MyGO!!!!!と同時期に聴いていたこともあって、インディーズバンド - アニソンの対比と情感豊かな歌メロやアルペジオの類似性から面白いリスニング体験ができていた。ひとひら、今年は絶対にライブで観たい。


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10. THE NOVEMBERS / The Novembers

THE NOVEMBERSは間違いなく好きなバンドなんだけど、今まであまり丁寧に追えていなかった。活動初期の「picnic」と「The Novembers」(後者は今作とは別のセルフタイトルEP)、それと2016年リリースの「Hallelujah」が気に入って雑に聴き齧っていた程度だったのだが、今作はそれらが持つ異なる良さを融合したようなアルバムだと思った。荒々しいバンドサウンドに陶酔的なボーカルが乗っかっていて、違う世界に連れて行ってくれるような魅力がある。

これを書きながらYouTubeで検索してみて初めて知ったけど、アルバムのどの曲もシングルカットもMV化もしてないんだ。ライブで先行販売していたことは知ってたけど、かっこいいな......。正直まだあまり聴き込めてはいないが、今後繰り返し聴くことになりそうなのでこの中に選んだ。このバンドの歴史も含めて、これからもっと味わっていきたい。


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10枚の中からあえてベスト3を選ぶとしたら

  1. ひとひら / つくる
  2. 君島大空 / no public sounds
  3. Homecomings / New Neighbors

かな......。2位と3位は悩む。「つくる」はエモ・シューゲイズという自分の近年の嗜好にガッチリとハマってくれた大傑作、「no public sounds」と「New Neighbors」はオルタナを素地に自分の好みをさらに押し広げてくれた作品のような気がしている。

アルバム単位では、実際には今年によく聴いていた去年リリースの「結束バンド」(結束バンド)や、バンドとしての強さを見せつけられた「ひみつスタジオ」(スピッツ)なども入れたかった。あとはPeople In The Boxと羊文学の新譜もまだ聴き込めてないな......。バンド単位では多次元制御機構よだか、Blurred City Lights、MoritaSaki in the poolあたりも今年のリスニングを特徴づける良い出会いだった。ベストソングというところで言えば、ノウルシ「燃え残りの日々」とキタニタツヤ「青のすみか」は間違いなく入ってくる。

今年はもっとライブにも足を運んでいきたい。