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いいバンドだったなー本当に。こういうインタビューも清々しい気持ちで読めるくらい、美しい引き際だったと思う。教室の隅、「フォトハイ好きなの?」で始まる青春が欲しい人生だった。

 

斜線堂有紀『回樹』

斜線堂有紀初のSF短編集。久しぶりに単行本の小説を買った。SFとしてのアイデアがどれも新しい一方で、そのアイデアを単なる舞台装置として割り切るような潔さがある。あくまでも人の感情を描くことが目的みたいで、すごく推せるポイント。
「回樹」で語られる、場所は有限だから死体や墓が増えるごとに死者との距離はどんどん近づいていく、という話が印象的で、「BTTF葬送」や「不滅」でも同じテーマが語られる。もうこの世界に存在しない人やモノへの感情は、共感できない妄執もあれば少し理解できるところもあり、似たテーマを多角的に見れる面白さがあった。そして少し狂った人間を描くのが上手い。そういった点で一番面白かったのはやっぱり表題作の「回樹」かなと思うけど、そのテーマからは少し離れた「奈辺」も存外面白かった。

 

劉慈欣『円』

半年前に8割くらい読んで放置していたものを、最後まで読んだ。過剰なテクノロジーの発達や環境破壊に晒されながらもがく人類、みたいなテーマが一貫してる。「月の光」と「人生」は特に人類に対する諦観に振り切っていて、オチが良かった。「円」で出てくる人力計算機はすごく見覚えがあって、すぐに「三体」の元ネタだと気づいた。

 

響け!ユーフォニアム

弱小だった吹奏楽部に新しい顧問が赴任し、厳しい指導のもとで人間関係などに悩みながら全国大会出場を目指して成長していく部員たちの青春ドラマ。アマプラで公開されていたので、アニメ1〜2期と劇場版を全て観た。ゴールデンウィークは全てこれを咀嚼するのに費やしたと言っても過言ではない。

高校生の部活動だからこそ味わうことになる様々な苦しさや嬉しさがリアルに描写されていて、なんだか凄く食らってしまった。高校時代にあまり真面目に部活をやっていなかった自分にとっては特に眩しく映る。じゃあ吹奏楽部や運動部に入っておけばよかったと後悔するかというと、それをしなかった分勉強に打ち込んで満足のいく結果が得られたところはあるわけで、簡単に自分の高校時代を否定するのも違うかなとは思う。自分にとっての青春はそれだったと納得するべき。大変な部活動に打ち込んで入試でも現役で結果を出している人は本当に尊敬する。

それに、例えば中3のときにこの作品をリアルタイムで観ていたとして、今と同じように感動して、それこそ吹奏楽部に入りたいと思っていたかというと、それもちょっとわからない。この前「スキロー」を読んだときと同じで、やっぱり普通の学生生活が終わってしまった今だからこそ感じるものがある気がする。この前ほどしんどい気持ちにはなっていないけど。それはそれとして自分が仮に吹奏楽部に入るとしたら、普段はコントラバスを弾いて、学園祭とかではベースを弾く人になります。かっこいいので。

作品の具体的な魅力の一つとして、主人公・黄前久美子の性格がちょっと悪いのがとても良い。冷めていながら面倒な性格が根にあるので、次第に本気で練習に打ち込むようになる様子が真に迫る。京アニの描写がめちゃくちゃ優れているのももちろんある。主人公のモノローグがこんなに良い作品になかなか出会えない気がする。高校一年生から出てくる語彙か?という独白が、かえって自分の中で言語化されていない気持ちを克明に描いていると思った。

人間性は多面的なもので、初めはとっつきづらかった先輩が実はとても優しかったり、逆に親しみやすかった人に過酷な背景があったりする。その、徐々に人となりが明らかになっていく描写が丁寧。中川夏紀と吉川優子がすっかり好きになってしまった。地味に良いなと思ったのが、秀一への告白に踏み切れない葉月の背中を押した緑輝が、失恋を知って自責の念に苛まれるところ。そういう自然に起こりうる感情の動きをしっかりと描写してくれるのがありがたい。キャラクターの感情に嘘がない。その一方で、久美子の前での麗奈や、みぞれに対する希美の態度など、一言では表せない、なんなら意味不明な感情が描かれているのも大事だと思う。それぞれのキャラクターは第一印象としてはアニメ的にアイコニックに描かれるとしても、ステレオタイプなロールを演じることに終始するわけではない。それを主要キャラ10人くらいに対してやっているからすごいよね。

吹奏楽は単なる舞台装置ではなくて、演奏シーンにも頭がおかしくなるくらいの力が入っている。楽器とかには全く詳しくないけど、上手い演奏、下手な演奏が素人耳にも「音だけで」ちゃんとわかるように表現されているのがすごすぎる。舞台が京都であること自体に大きな意味はないと思うけど、京アニとの親和性は言わずもがな、京都であるからこその雰囲気は作中に反映されている気がする。

(映画「リズと青い鳥」もシリーズの作品の一つだけど、ちょっと別格すぎて、もう一度観てからちゃんと文章化したいかも。)

 

ちなみに原作も買ってしまった。全巻ではないけど、気づいたら7割くらい揃ってる......。原作では多くのキャラが京都弁なので、そのために自分の頭をチューニングするのが新鮮だった。原作を読むと、アニメでの再構成の力に感服する。単純比較はできないけど、ちょっとした描写の省略・追加が全て効果的に働いていて、総合的な完成度としてはアニメの方が圧倒的に高いと思った。その一方で、原作ではメインではないキャラの描写が厚くて、アニメではよくわかっていなかった言動の背景がよりよく理解できたのが嬉しい。今はスローペースにアニメ化していた1年生編を読んでいる途中なので、相対的に原作の方が描写が厚い2年生編が楽しみ。

 

Homecomings

何かの作品に衝撃を受けた後は、その作品以外のコンテンツを摂取したくなくなるのだけど、映画の主題歌を歌っていたHomecomingsを聴くことだけはできた。


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映画を観た後だと歌詞がめちゃくちゃ刺さった。英語の発音がそこまで良いわけでもないし、正しいイントネーションにならないような歌詞の乗せ方だと思うのだけど、それは全く悪いことではないと思う。UK・USインディーポップの文脈にあるようなサウンドに日本の歌謡曲的なメロディーが乗っていて、単なる再生産になっていない。だからこそ海外でウケているのかなと憶測する。最近はGalileo Galileiの耳になっていたので、ルーツを同じくしていそうなこのバンドに良いタイミングで巡り会えた。


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ちょうど先月に出た新譜がめちゃくちゃ良かった。この「US / アス」という曲がお気に入り。そこまで音を重ねる編成・アレンジではないけど音が過不足なく埋まっていて、聴いていて全く疲れないのに満足度が高い。サビの最後、「僕らはたまたま美しい」ってフレーズもいい。

この曲はアルバムでは2曲目だけど、後半に行くにつれてディストーションが効いてきて、特に「euphiria / ユーフォリア」は自分好みのオルタナサウンドに寄っていて嬉しくなってしまった。「US / アス」との対比も美しい。