7/12-7/17

タニタツヤ - 青のすみか


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一聴ではそこまで刺さらなかったけど、聴いているうちに良さがわかってきた。まずイントロのギターがオルタナのオタクとしてはとてもウキウキする作り。そしてA〜Bメロの歌を聞かせるアレンジから、サビ入りでテンポを一旦崩される感がある。最初はこれに「ん?」となったんだけど、青のイメージから想起される爽やかさをあえて歪ませているのかなと思った。この人の歌メロの乗せ方の秀逸さは「PINK」あたりからもよくわかるわけで、これは狙っていそう。カッティングの精度もすごいし、サビ終わりから裏拍で入るギターも最高。総じて、キタニタツヤの出自であるオルタナティブロックと、デビューしてからの数年で追及してきたポップが高い次元で融合した曲だと思った。

MVもすごい。「青のすみか」というタイトルの爽やかなサビで、真っ赤で動きの少ない画面を見せる思い切り。正直こういうの大好きです。「初夏、殺意は街を浸す病のように」みたいに「陰鬱な夏」のモチーフを描かせたら随一の人だと思うので、キタニタツヤの本領発揮といったところなんだろうな。呪術廻戦の話をちゃんと知っていたら多分もっと味わえるんだろう。ちゃんと映画とアニメを観ます。できれば原作も......。


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今井むつみ・秋田喜美『言語の本質』

オノマトペという題材を足がかりに言語の本質とは何かという問いに迫っていく、著者のこれまでの研究を一般向けにまとめた集大成的な本。著者の思考に沿ったストーリーが軸にありながら極めて論理的に進んでいくので、飽きずにストレスなく読めた。

子どもが言語を学ぶ上で、物事の様子を写しとるオノマトペが持つアイコン性が「記号接地」に非常に役に立ち、それを足がかりとしてアブダクション推論による学習により言語を学んでいく、ということらしい。流行りのLLMは身体感覚や経験に根ざさない(接地していない)記号の間を漂流するだけのものであることや、それと対比される人間の抽象概念の学習についての話が特に面白かった。

 

pacific ocean park #1

新代田駅前の橋、良い

管梓さん主催の、ドリームポップ・シューゲイズのバンドを集めた企画。何気に新代田FEVERは初だった。

Moon In Juneはリズム隊の安定感がすごく高くて、そこに重なるジャズマスや歪みまくったストラトの音が良かった。歌を聴かせるバンドだと思うので、もっと歌詞が聞き取れればいいのになあとは思った。

aoihrはこのイベントに出ると知ってからまともに聴き始めたけど、そこで気に入った「青」をやってくれたのが嬉しかった。このジャンルで声を張り上げる人って全然いないので新鮮だし、サビ入りの轟音バーストもサビ終わりの転調もとても良い。最近の耽美派シューゲの曲たちも良かった。

くゆるは2週間前に観たばかりだけど、より近い位置で、長尺で浴びることができた。ギターの音も凄いが、ベースも他のバンドではなかなかないくらい響いてくる。真っ黒な服で俯きがちに演奏している他のメンバーに対して、半裸のドラムがエモーショナルな叩き方をしていたのも良かった。

MoritaSaki in the poolは5バンドの中で一番良かったかもしれない。男女混声の淡いボーカルが作る雰囲気が心地良いし、アルペジオによる美メロのリフレインが続くかと思ったらシューゲらしいノイジーな局面もあって、満足度が高い。前にも書いたけどメロが本当に良くて、特にShe set under the bridgeが好き。あとはTwitterの感じから中身が変わった人であることはわかっていたけど、エキセントリックなMCが面白かった。だいぶファンになった。

エイプリルブルー、管さんのギターがめちゃくちゃ歪んでた。やっぱり曲が良いな。特に「いつかの海」の収録曲が好きで、季節的にもシーサイドとかピッタリだった。新曲、イントロの轟音が印象的な「ひらいて」も良かった。早く音源化してほしい。

 

君たちはどう生きるか

公開初日に観た。以下ネタバレ。

 

 

 

 

 

 

少年の異世界冒険譚とは恐れ入った。さすがジブリの絵作りは凄くて、死を連想させる不気味さも、生き物の群集の躍動感も、人間の生活感も、すごい実感を伴って眼前に迫ってくるものがある。今までのジブリの映像表現の集大成といった趣で、随所に過去作へのオマージュもあったように感じる。トトロの巣へ向かう獣道とか、千と千尋のトンネルとか、もののけ姫のコダマとか、明示的ではないけど類似するものが多かった。

多くのジブリ作品に一貫するモチーフとして「あの世」があると思うのだけど、今回もそう。というよりむしろ、創作された世界そのものを過去作を包括する形で描いていると思った。宇宙には色々な世界があって、現世を生きる人は、時折その入り口へ迷い込んでしまう。そんな異なる世界どうしを繋ぐ扉として本作では「塔」が現れ、「母親が中にいる」と誑かされた主人公・眞人はその中へと進んでいく。これは「千と千尋」における千尋であり、「トトロ」におけるメイとサツキでもある。身重のナツコが塔の中へ進んでいった理由はよくわからないけど、眞人と新しい家族として上手くやれないことや出産に対する不安につけ込まれて、これまでの主人公たちと同じようにその世界に魅入られてしまったということかな。

その迷い込んだ世界というのは、メタ的に言ってしまえば宮崎駿が創ってきた世界だと思う。大叔父様は明らかに宮崎駿自身を写したもので、彼は眞人に「穢れていない13個の石を積み上げてこの世界を守ってほしい」と告げる。それに対し眞人は「自分は悪意のある人間だからそれはできない」と言い、元の世界へ戻っていく。この「13個の石」というのは、宮崎駿がこれまでに作ってきた映画のことだろう。それが継承されないまま、あの世界は崩壊していってしまう。彼の息子に対する厳しさなどを鑑みれば、宮崎駿は後継者を求めてはいない、後人に期待していないという話として受け取ってしまうが、核のメッセージは「我々は結局のところ現実を清濁併せ呑んで生きていかなければならない」ということだと思う。「下の世界」で眞人は、母親(=ヒミ)に対する未練を断ち切ってナツコを母親と認め、さらに友達の作り方や周りの人たちへの感謝や思いやりの心を学んで、現実に戻っていく。つまり、創作の世界から生きる術を学び取って、現実に戻って自分の人生を歩んでいかなければならないという、ある種の強かさを伝える作品だと思った。これは本当に宮崎駿最後の作品なのかもな。

幼い頃からジブリ作品を観てきて、そして今このタイミングで本作を観れたのは良かった。面白かったです。ただ、なぜナツコがあの世界に魅入られたのかとか、あの世界で眞人を拒絶した真意とか、飲み込みきれていない部分は多々ある。色んな角度からしゃぶり尽くせる作品だと思うので今後も考えたいし、後で発売されるパンフレットとかの情報を待ちたいね。